WEB小説紹介 №027 「リコリスの彼岸」 水雲 悠さん
リコリスの彼岸
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その記憶は、虚構か、幻想か
あらすじ(引用しております)
その記憶は、虚構か、幻想か。
魔法が存在しないはずの世界。千年の時を経て、人々は再び神秘を目にする。世界の姿が明らかになっていくなかで、ある少女が宿命に抗う物語。
誰も世界を救わない、一風変わったファンタジー。
再読必至という、web小説らしくない小説を敢えて目指します。タイトルの意味を考えながら読んでみてください。
序盤であまり焦点を当てない重要人物が多数存在します。登場人物一覧をご覧ください。
本文の一部を引用
Prologue
最初に忘れたのは、自分の姿だった。
それでも、彼の姿を忘れることはない。そして、彼が呼んでくれた自分の名前も。
私は覚えている。我が子たちを、愛した人々を、彼らと過ごした思い出を。忘れたのは、自分の姿だけだ。そしてその記憶は、哀傷に満ちている。
誰か、此岸を彷徨い続ける私に、忘却の雨を降らせてはくれないか。
一章の本文引用
息苦しさに、ミコトは目を覚ました。
白い尾が、頬をくすぐる。白猫が胸の上にくるまっているのだ。
起き上がり、すばやく身なりを整える。その間、白猫のシエロは、大人しく見守っていた。
シエロを連れて部屋を出ると、父の部屋の前にヒナタが立っていた。
「おはようございます、お嬢様。朝早いんだな」
彼は冷笑を浮かべて言った。お嬢様、というのは嫌味だ。
「おはようございます。起床時間ですか?」
「まあそうだ。お父上にご挨拶するかい?」
ヒナタは父、アイザック・オリヴァーの友人であり、長年秘書を務めている。人々は彼を「アイザック・オリヴァーの影」と揶揄するが、ミコトはむしろ、黒衣だと考えていた。彼との付き合いも長いが、どうにもつかめない男なのだ。
アイザックは、とある会社の経営者である。同族経営で、オリヴァー家は国内有数の資産家として知られているが、彼はその中でも、若くして首領を任される実力者というわけだ。
資産家で端正な顔立ち、さらに寡夫ときているので、彼は自覚していないようだが、後妻を狙う女性は少なくない。しかし持ち前の鈍感さで、のらりくらりと躱しているようだ。そんな彼を、朴念仁と呼ぶ者もいる。
当然、彼にも弱点はある。寝起きの悪さが、数少ない欠点のひとつだ。人並み以上に睡眠時間が必要な上に、就寝時間に関わらず、朝には滅法弱い。毎朝彼を起こすのは、ヒナタの仕事なのである。
「結構です。お先にどうぞ」
目次
序章 此岸
一章 悲しい思い出
二章 想うはあなたひとり
幕間
三章 また逢う日を楽しみに
四章 追想
五章 葉見ず花見ず
終章 彼岸