WEB小説紹介№070 「彼女は春を俟っている」夢見里 龍さん
彼女は春を俟っている
※ファンアートを新調してみました。
あらすじ引用(作者様に許可を取っております)
春を俟《ま》っています――――
鶴のような真白の振袖をまとったそのひとは無人駅の端にたたずんで、いつも誰かの訪れを待っていた。誰を待っているんですかと訊ねた僕に、彼女は寒椿のような唇を綻ばせて「――春を」といった。
その冬、僕はたぶん、ゆきおんなに恋をした。
ジャンル:現代ファンタジー
タグ:純小説/掌編/現代幻想/幻想小説/和歌
文字数:5,673文字
冬の時期に読むのをお勧め:☆☆☆☆
洗練された描写:☆☆☆☆
語彙力がすごい:☆☆☆☆☆
和歌もそうですが、主人公と彼女とのやり取りが好きです(*’∀’人)
主人公の細やかな心理描写も素晴らしい。感想の語彙力がどこかに消えました←
毎朝無人の駅にたたずんで
「春を俟つ」美しいあのひとに僕は、
恋をした。
本文引用(作者様に許可を取っております)
そのひとをなにかに例えるならば冬、だった。
白い肌に白絹の振袖をまとい、ふるぼけた駅のホームにたたずむそのひとは、ひたすらに誰かを待ち続けていた。誰を待っているんですかと訊ねた僕に、彼女は「春を」といった。
春を
俟 っています――――と。
はじめて彼女を見掛けたのは二月になったばかりの朝だった。梅のつぼみが
弛 みはじめて、ああ、けれどまだ春は遠いなあと白い息をてのひらに吹きかける頃のことだ。昨晩から降り続けていた雪が朝がたになって細雪にかわった。僕の地元は寒椿が凍りついて咲かないほどに寒いが、雪はそうそう降らず、いったん積もってしまえば春になるまで融けることはない。稲作がおもなこの地域の農家では冬のあいだは収入が絶える。だから晩秋の収穫が終わればみな暖かな家にこもり、春までじっと堪えしのぶのだ。
僕はフェザーダウンを頭までかぶり、敷きつめられた雪を重たい靴で踏みながら駅にむかっていた。
家から徒歩十五分。寂れた無人駅から、僕は某県立高校に通学している。
駅舎はない。五段程度の階段があって線路からちょっとあがったところに、屋根もなければ壁もない吹きさらしのホームがあるだけである。もともとは木製のベンチがあったそうだが、壊れて撤去された。標識は錆がまわってほとんど読めず、かろうじて「を」というまるいひらがなが見て取れるだけだ。春の見物の時期と夏の祭りの晩をのぞいて利用者はめったにおらず、普段ここの駅から乗るのは僕くらいのものだった。
だがその朝は、駅にひとがいた。
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↑こちらは去年のクリスマスに贈ったファンアートです。
女性をメインにした形で仕上げております。
対して今年新調したのはこちら(*’∀’人)
冬の寒さと美しさを出すために背景なども変えてみました✨