WEB小説紹介№052 「イェリエルの空が割れても、その波に少女の命を捧げる必要はない」 成井露丸さん
イェリエルの空が割かれても、
その波に少女の命を捧げる必要はない
作者:成井露丸
あらすじ引用
イェリエルの街を統治するイェール公爵邸を訪れた、放浪の賢者レイン。
四年に一度の宗教儀式『イェリエルの空』が始まる。
そこで、持ちかけられた相談は、その生贄となる娘アリシアの命を救うことだった。
四年に一度の宗教儀式。
少女の命を捧げる。古き因習に逆らえ!
本文引用
※作者さまから許可は頂いております。
イェリエルの空が割れても、その波に少女の命を捧げる必要はない。
空を覆う乱層雲が割れて、一本の光の筋が射し込む。
それは商業の神デアボラが人々に与える恵みそのものに見えた。
そこから天使でも降りてきそうだ。
イェリエルの街に生まれ始めた魔法のような情景を、男は公爵邸二階の窓から苦々しい表情で眺めていた。窓枠に体重を預けるように左肩をつけて、石造りの部屋の中から。
街並みと共にある日常が、その不自然な空に染められそうで、身震いする。
「異世界の知識をお持ちと噂の『放浪の賢者』――レイン・ルクリア殿も、あの光をご覧になるのは初めてですかな? ――美しいものでしょう?」
そう背後から声を掛けたのは、上品なローブを身に纏った中年の男性。この街を統治するイェール公爵その人だった。
「えぇ、美しいですね。――こういう情景を実際に見たことはありません。……これが、噂に聞く四年に一度の『イェリエルの空』なんですね?」
賢者と呼ばれた男――レインは振り返る。
窓の外の神々しい光に目を細めた公爵は、物憂げでもあった。
石造りの部屋の中では、もう一人、少女が樫の木で作られた椅子に沈み込んでいる。淡い空色のドレスを身に纏った美しい銀髪の少女だ。
「えぇ、そうです。デアボラの大神殿が担う四年に一度の儀式」
「――四年に一度」
「ええ。この国では四年に一度、商業の神デアボラの祝福が薄れ、人々の活力が失われるのです。店の売上が低下し、生活が困窮する。ですから、主神たる商業の神デアボラに回復を願う儀式を執り行うのです。――それが、今日から始まり、明日の昼過ぎまで続く儀式――『イェリエルの空』なのです」
「神様に商業の賑わいを取り戻すお祈りをする、ということですか? ――そして、その生贄となる少女の魂が必要だと」
イェール公爵は重々しく頷いた。自らの立場と、父親としての思いを天秤に掛けながら。
レインは椅子に沈む公爵令嬢アリシアを見遣る。
二年前にこの街を訪れた時はまだまだ子供っぽかった少女も、随分と女性らしくなっていた。昨夜、自らに「生きたい」と懇願してきた彼女。国の因習に縛られながら、それでも自らの生を求めるその姿を、レインは美しいと思った。
「この国全体から中位以上の神聖術の使い手をかき集めてきて作る大規模神聖術式。……大仰なことです」
「デアボラ教会が行う最大儀式の一つですからな」
「……だから、公爵個人が娘可愛さに中止出来るものでもない、と」
公爵はレインの隣まで来ると、曖昧に笑った。否定もせず、肯定もせずに。
「アリシアは大切な娘。父親としては、もちろん失いたくはないです。しかし、領民を預かる身としては、この街が、デアボラ神に見放され、衰退していくのは――避けたいのだ 」
隣で街を見遣るイェール公爵の横顔をレインは伺う。娘を愛おしく思う父親の表情。領民を愛おしく思う領主の表情。
レインは、その双眸の奥にある願いを、叶えたいと思う。
タグ/異世界転生 経済学 公爵令嬢 知識チート 宗教 ファンタジー 放浪の賢者 KAC20201総文字数/3,968文字
サクサク読める度:☆☆☆☆
世界観が好き度:☆☆☆☆
まとまり感:☆☆☆☆
世界観など短いながらにまとまっていて、個人的に読みやすく好きです。
どう物語が展開していくのかお楽しみくださいませ╭( ・ㅂ・)و̑ グッ
表紙画像が出来上がるまで*:゜☆ヽ(*’∀’*)/☆゜:。*
今回は人物ではなく、街にしてみました。
光などのエフェクトを追加して、緑などは生命力などをイメージして。
白い英文はあらすじなどから引用しました(*’∀’人)
ちょっと✨を入れてみました。