WEB小説紹介№032 「雪月花」「黒と白」 吉田タツヤさん
雪月花
なろうにて掲載中
太陽の光を浴びて妖しく光る刀身を抜き、大上段に構える。周囲の空気がユキジの刀身に集まってくる。ユキジは呼吸を止めた。そして一瞬。閃光が斜めに奔ると地面から立てられた巻き藁は真っ二つになる。そして、少し遅れて起こる、周りからの大喝采。
どうしてこんなことになったんだろう? 人だかりの中心でユキジは思った。ユキジの持つ刀は普通とは違った少し特殊な刀、決して巻き藁を切るようなものではないのに……
旅の途中の小さな宿場町にできていた人だかりに首を突っ込んだのが間違いだった。珍しい女性の大道芸人の様々な芸に夢中になって、いつの間にか人だかりの最前列までやってきたユキジは、これまた珍しい女剣士ということで大道芸人に目をつけられたのだろう。有無を言わさず人だかりの中心に連れてこられ、即席の助手にされてしまったのだった。
そんなユキジの後悔をよそに、となりではさっきまでこの人だかりの中心だった女性大道芸人が口上を始める。
「さあさあ、見事な斬撃をみせてくれたこの刀。見ての通り、紛れもない真剣となっております。この刀の刀身をひょいと腕に当てて少しずらせば……」
女はユキジから刀をとり、左の前腕部に着物の上からあてがうと、思いっきりそれを引いた。当然そこからは血が流れ、瞬く間に着物に血がにじむ。周囲からは驚きと悲鳴が上がる。ユキジも予想外の事態に驚き、女の様子を伺う。そんな周囲の心配をよそに女は続ける。
「……このようになります。さあ、でもここで驚くなかれ。ここに取り出したる薬品は何を隠そうあの妙木山の仙人が調合した蝦蟇油。これを右手でちょちょいととって患部にすり込めばどうなるか? 各々よく目を凝らして見てちょうだい!」
いつの間にか悲鳴もなくなり、その女性のペースに皆が巻き込まれていった。観衆が固唾を呑んで見守る中、女が左腕の袖の部分をたくし上げる。
「さあ、どうだ! 先ほどの傷があっという間に消えてなくなった」
女の透き通るような白い腕には確かに薄黄色の油がついている以外はすっかり出血も傷跡もなくなっていた。ユキジは正直、怪しいと感じたが、周囲の反応は素直に驚いていた。そんな反応をみて、すかさず女は続ける。
「この蝦蟇油、本来ならば秘伝中の秘伝、決して人目に触れさせてはならないものですが、妖怪騒ぎが絶えない今の世の中、仙人様も皆のために使えと仰りました。どんな傷でもたちどころに治してしまうこの蝦蟇油が今ならたった150文! さあ、数に限りがあるからね! 早い者勝ちだよ、買った! 買った!」
◆
さっきまでの人だかりも消え、あたりは行き交う人々と数件の宿の呼び込みの声が聞こえる、いつもどおりの姿に戻っていた。先ほどの女大道芸人は片づけを始めながらユキジに話しかけてきた。
「さあて、苦情が来る前に逃げちゃいますか! あっ、姉ちゃん、さっきはありがとな、なかなかの腕前やったで! ほんまに相方としてほしいぐらいやわ」
「えっ、あ、どうも。……でも逃げるってさっきの薬やっぱりインチキだったんですか?」
「インチキとは失礼な! さっきはちょっとばかし過大な演出をしただけや」
「……それをインチキって」
すかさずツッコミを入れようとするユキジを制して、女はユキジの肩に手をまわして引っ張っていきながら言った。
クリスマス🎄といえば
— あさぎ かな@シナリオライター(本業) (@Chocolat02_1234) 2019年12月21日
贈り物🎁
贈り物といえばサプライズ🎁
というわけで唐突に始まります
( ´∀`)@DOt281 pic.twitter.com/oWXY7bN2aB
【短編】黒と白
拓也とユキの日常を描いたほのぼの恋愛短編の第二弾。早く大人になろうと少し背伸びする拓也と、ありのままを大切にするユキ。一杯のコーヒーが二人の人生観につながっていく。あったか~い幸せを感じてみてください。
「大丈夫? 最近つかれてるんじゃない?」
食事のあと、こたつで放心していた僕に対してユキは心配そうに聞いた。
「いや、大丈夫だよ。ちょっとぼーっとしてただけ」
うん、かなり疲れてる……素直に答えられない僕はまだまだ子どもだな。あこがれだった一人暮らしも実際に始めてみるとかなり大変なものだった。やっぱり夢と現実は違うらしい。大学も卒業し、就職もした。もう一人前だからと威勢よく家を飛び出してはみたものの、今日だってユキが来てくれなきゃ、カップ麺なんかで夕食もすませていたんだろう。